トルコリラが20%以上の急落。予断を許さないトルコリラ暴落の背景と今後の為替予想

2018年8月10日トルコリラが暴落・急落しました。その背景と今後の為替予想について解説します。

トルコリラの現状

トルコリラ/円

最安値:1リラ = 16.215円

トルコリラ/米ドル

最安値:1リラ = 0.149ドル

2018年8月10日、トルコリラは20%以上の暴落をしました。

トルコリラ暴落の背景

時系列で見てみると

2017年4月

トルコ大統領の権限拡大のための憲法改正の是非を問う国民投票で、賛成51%の僅差で承認され、大統領がこれまで以上に大きな権力を振るう新体制に移行

2017年9月13日

トルコがロシアの最新鋭地対空ミサイルシステムの購入に合意

2018年8月24日

レジェップ・タイップ・エルドアン大統領が再選

2018年8月26日

ミッチェル米国務次官補がトルコに「ロシア制裁強化法に基づく制裁の対象になり得る」と警告

2018年8月8日

トルコ代表団は、悪化の一途をたどる両国関係修復の糸口を探るため訪米していましたが

トルコ代表団は米国務省当局者とのワシントンでの協議で、トルコが拘束している米国人牧師の釈放を約束することを拒否

しました。

この背景には

トルコの国営銀行「ハルクバンク」が対イラン禁輸逃れに関与した疑いで米当局の捜査対象となり、米財務省から多額の罰金を科されるという「米国からトルコに対する制裁」がありますが、トルコが拘束している米国人牧師の釈放を約束することを拒否したため、

「アンドルー・ブランソン牧師が釈放されるまで、ハルクバンクと収監中の同行バンカーへの減免措置を話し合うつもりはない。」

と米国も突き放した形になります。

2018年8月10日 ※日本時間15時前

英フィナンシャルタイムズ(FT)電子版

「欧州の金融監督当局はリラの急落を背景に、トルコへの最大の貸し手であるスペインのBBVA、イタリアのウニクレディト、フランスのBNPパリバの資産状況を懸念している」

と報道しました。

ここで一気に「トルコリラ売り」「ユーロ売り」が加速した形になります。

2018年8月10日 ※日本時間21時

米国大統領トランプ氏

「トルコからの鉄鋼、アルミニウムへの輸入関税を2倍とし、それぞれ50%、20%を課すことを許可した。」

とツイートしました。

2018年8月10日 ※日本時間22時半

エルドアン大統領が演説、アルバイラク財務相が新たな経済計画を公表

トルコリラ下落に歯止めはかかりませんでした。

考察

トルコのエルドアン大統領は、2003年3月16日首相に就任し、金融危機を終息させ、国際通貨基金に従って経済構造改革を実行し、財政を健全化、国民一人当たりの所得は2002年の3492ドルから、2013年には3倍増の1万807ドルまで伸ばした大統領です。

トルコ国民からの信頼も厚いのですが、長期政権が続いてしまったことで

  • twitter、facebookやYouTubeへのアクセスを遮断する姿勢を見せ、実際にYouTubeは遮断。
  • 政府がウェブサイトの遮断や個人のインターネット閲覧記録収集をすることを認める
  • 政府に批判的な姿勢を理由に警察や軍の兵士4万人以上を拘束
  • 憲法改正で大統領がこれまで以上に大きな権力を振るう新体制に移行
    ・・・

と、かなり独裁色の強い大統領として、君臨しているのです。

トルコにとって米国は
  • IS壊滅作戦で、トルコ国内でテロと軍事衝突を繰り返してきた極左テロ組織の兄弟組織である「クルド民主統一党PYD」「人民防衛隊 YPG」に頼った。
  • 2016年7月のクーデター未遂の首謀者とされるフェトフッラー・ギュレンが米国内に滞在したままで,トルコ政府からの度重なる引き渡し要求に米国が応じない

という確執があり

米国にとってトルコは
  • ロシアの最新鋭地対空ミサイルシステムを購入した。
  • 2016年のクーデター未遂への対応としてジャーナリスト、学者、キリスト教徒らへの取り締まりを強化し、米国人牧師のアンドルー・ブランソン牧師が逮捕され、自宅軟禁された。

という確執があり

米国、トルコの間の緊張感は徐々に膨らんでいた。

という前提があります。

緊張感の高まりとともに、なだらかにトルコリラは下落を続けていたのです。

トルコリラ/米ドル

しかし、この関係改善を元に派遣されたトルコ代表団と米国務省当局者の協議で

トルコが拘束している米国人牧師の釈放を約束することを拒否した。

ことで、より両国関係は悪化したのです。

ここで欧州メディアが

英フィナンシャル・タイムズ(FT)

「欧州の金融監督当局はリラの急落を背景に、トルコへの最大の貸し手であるスペインのBBVA、イタリアのウニクレディト、フランスのBNPパリバの資産状況を懸念している」

と報道し、トルコリラ安だけでなく、ユーロ安にも波及してしまったのです。

トルコ自体の実体経済や財政は、エルドアン大統領になってからは好調でした。

しかし、トルコリラ安が止まらなければ・・・

  • 海外へのマネー流出
  • インフレの悪化
  • トルコの財政悪化(短期のドル建て債務への依存)

が起き、経済危機が起きてしまうと考えているのです。

トルコ資産を多く保有しているユーロの金融機関が危ないと、懸念したニュースにより

  • ユーロ安
  • ユーロ安がトルコリラ安を誘発する
  • トルコリラ安がユーロ安を誘発する
    ・・・

というスパイラルに陥っている中で

トランプ氏がダメ出しの「関税引き上げ」ツイートをしたため

今回の「トルコリラの暴落」が起こってしまったのです。

この背景には、独裁色の高まりを投資家が敬遠して、徐々にマネーを引き上げていったということも、ボディーブローのように効いています。

トルコリラの今後の為替予想

筆者の予想は

トルコリラの下落は落ち着いて上昇に向かう

と考えます。

その理由としては

  • トルコの実体経済は好調であること
  • トランプ氏は、はじめは強引な交渉を挑み、最終的には落としどころを作るのがうまいこと
  • 今回で、投資家のストップロス注文はある程度刈られてしまったこと

が挙げられます。

実体経済が好調で、トランプ氏も、どこかで落としどころを作るのですから、トルコ危機が去れば、トルコ資産を保有する金融機関の信頼も元に戻り、トルコリラも下落前の状態には戻る

と考えられるのです。

ただし、「トランプ氏が落としどころを作る」までの期間がどのくらいかは予想がつきません。

また、どこでトルコリラが下げ止まるのかも、微妙な情勢です。2018年8月11日現時点では、投資家のストップロスも刈り取られ、ニュースも出尽くしての、16円~17円近辺ですから、ここで下げ止まるのか?もう1、2回トランプ氏の強引な交渉ツイートが出てくるのかで大きくその後のトルコリラの動きが変わってきます。

日本人投資家の中には、トルコリラのスワップ狙いで長期保有をしている方も多いかと思いますが、情勢が判断できる状態になるまで、一時的にレバレッジを引き下げておくことをおすすめします。

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