にわかに長らく続いた金融緩和合戦から世界が徐々に脱しつつあるようです。しかし、日本はいまだ金融緩和を辞められず、米国のトランプ政権もぐらついていて、何がどうなっているのか?わからない状況になっています。各国の記入政策の状況と今後の為替市場の予想を解説します。
初心者のための前提の解説
FXの為替レートは金利に連動します。
金利というのは、各国の国債金利のことであり「2年もの国債金利」「10年もの国債金利」が採用されることが多くなっています。※基本は「2年もの国債金利」です。
資本(投資家のお金)というのは、川の水が高いところから低いところに流れるのと同じように、低金利の通貨から、高金利の通貨に流れるのです。
そのため
米国の金利が上昇して日本円と金利差が拡大すれば
資本は日本円から米ドルに流れるので
「円安ドル高」になる
という動きが基本なのです。
そのため、二国間の金利差はそのまま通貨ペアの為替レートと強い相関関係があるのです。
2013年~2017年6月までの米ドル/円の為替レートと二国間の金利差
多少の振れ幅はあるものの、二国間の金利差はそのまま為替レートとして反映されます。
予断ですが、金利差がこのままであれば「米ドル/円は金利差のレートに近づくので円安になる可能性が高い」ということになります。
米国の利上げ
2017年6月13、14日:米連邦準備理事会(FRB)が金利引き上げ
米連邦準備理事会(FRB)は3カ月ぶりの利上げを決定しました。
米連邦公開市場委員会(FOMC)は短期金利の指標であるフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を
- 2017年6月13日:年0.75~1.00% → 年1.00%~1.25%
- 2017年3月15日:年0.50~0.75% → 年0.75%~1.00%
- 2016年12月に追加利上げ
- 2015年12月9年半ぶり利上げ
に引き上げました。
米国は「物価上昇率は目標の2%に近づいた」ことや「失業率も5%を下回る水準まで低下した」ことで景気回復と判断し、定期的にに利上げを進めているのです。
米国10年もの国債金利
米ドル/円
国債金利も上昇し、米ドル/円も上昇しています。
ただし、ある程度市場も利上げが折り込み済みだったためか、反応はそれほど鈍いものとなっています。
先進主要国での金融引き締めの発言が相次ぐ
2017年6月27日:ヨーロッパ中央銀行(ECB)マリオ・ドラギ総裁の発言
ポルトガルのシントラで開催されていたフォーラムでドラギ総裁が27日に
「ユーロ圏の景気が回復する中でも、大規模な金融刺激策の縮小には注意深くあるべきだ。」
との発言をしました。
しかし、これは金融引き締めをしないということではなく、「金融緩和の解除を緩やかにしか進めない意向」を示唆したのです。
シンプルに言えば
「景気良くなってきたから、ちょっとずつ金利引き上げるよ。」
です。
2017年6月28日:イングランド銀行のマーク・カーニー総裁の発言
「英国経済がこのまま好調を維持するという条件の下で金融刺激策の一部撤回が必要になる公算が出てくる」
との発言をしました。
ドラギ総裁と同じことを言っています。
シンプルに言えば
「英国も景気良くなってきたから、景気が好調な状態であればちょっとずつ金利引き上げるよ。」
です。
ドラギ総裁とカーニー総裁の発言後の国債金利はどうなったのか?
国債金利というのは
実際に利上げを実行されたときよりも、利上げを示唆されたときのほうが金利に大きくインパクトを与えることがあります。
「利上げするよ。」 > 「利上げしたよ。」
早く乗っかった方が投資家は利益がでるからです。
イギリス10年もの国債金利
ドイツ10年もの国債金利
どちらも、6月28日を受けて国債金利は上昇しています。
「通貨はどうなっているのか?」というと
ユーロ/円
ポンド/円
同時に円安になっています。
これはユーロ圏、イギリスの金利が上昇したのに、日本の金利は横ばいのため、金利差が拡大したためです。
低金利の日本円を売って、高金利のユーロやポインドに資本が流れたということです。
日本の国債金利はどうなるのか?
2017年7月20日:日本銀行の金融政策決定会合、黒田総裁の発言
「物価上昇率が安定的に2%に達する時期の見通し」を6回目の先送り
言い訳のオンパレード
「企業や家計に根強いデフレマインドがある」
「こういった状況がずっと続くのはありえない」
「見通しが外れたから(日銀の)信用がなくなることにはならない」
「見通しについて悲観的につくったり楽観的につくったりすることはあり得ない」
で黒田総裁を総括しました。
しかし、そう言いたくなるのも、わかります。ユーロ圏の国では、日銀と同じくマイナス金利導入、金融緩和による低金利を実現し、不動産市場の活況から景気回復、金融引き締めという王道の流れを成功させているのです。
- ユーロ圏:2017年1-3月期の実質経済成長率は前年比で2.5%増
理由:マイナス金利導入による建設・住宅投資の活性化 - イギリス:2017年1-3月期の実質GDP成長率は前年比で0.7%増(その前の期は2.5%増)
理由:Brexit「EUからの離脱」によるポンド安による輸出増
「真似をしたのに日本だけはうまくいっていない。」というなんとも情けない状態なのです。
結局、いくら市場にお金を流したくても、投資先の企業が積極的に設備投資をする状況にないことが大きな要因だと思われます。
「税金は高い」
「人口は減る」
「消費者もお金がないから低価格路線を取らざるを得ない」
「就職難から新卒の人材は保守的で起業する人もすくない」
・・・
色々な要因があるかと思いますが、金融政策をいくら動かしたところで、企業が「攻め」に出たくなる環境を作れなければ、経済は回復しないということなのです。
しかし、政府は経済政策どころではなく、今の支持率では「アベノミクス失敗」となれば、政権が倒れてしまうので、日銀の金融政策も止めることができないのです。
2018年末には日銀が保有する国債は発行額の6割に達しますが・・・「止めるに止められない」というのが黒田総裁の本音です。少なくとも、黒田総裁の任期中、2018年4月8日まではこの状態が継続するはずです。
日銀が行っている現在の金融政策は
イールドカーブコントロール(金利ターゲット)
と呼ばれるもので、10年もの国債金利をプラスマイナス0.10%の中に収めるようにコントロールして、国債を買うという政策です。
つまり、「日本の金利は0.1%よりは上がらない」のです。
米ドルの利上げも暗雲!?
さて、6月に利上げをした米国ですが・・・こちらも雲行きが怪しくなっています。
7月12日:イエレン議長の発言
「今後数カ月の物価動向を注視する」
米ゴールドマン・サックス
「物価判断を前回の「最近低下した」から「さらに低下した」といった表現へ修正すると予想」
と、利上げの根拠となっていた、インフレ(物価上昇)に陰りが見えてきているのです。同時にトランプ政権のめっきもはげつつあり、利上げを繰り返しているのに10年もの国債金利はそれほど上昇していないのです。
考察
さてどうなるのか?
ユーロ圏 → 不動産市場の活性化、輸出増による経済好調 → 利上げによる金融正常化を目指す
米国 → 物価上昇、失業率減少よる利上げ → 物価が低下、利上げも後退観測
日本 → 物価上昇は全く実現せず → アベノミクス失敗は認められないので国債買入れは継続
世界経済はこのまま進むとは限りませんが・・・
二国間の金利差が為替レートに影響するのですから
日本の金利が金利ターゲットの金融政策によって0.1%以内に力技で押さえつけられているのであれば
円安という大きな流れは進む
と考えます。
現在のように米国の利上げ観測が後退し、一時的に米ドル/円が円高に動いている状態もありますが、とはいえ、米国の方が金利は高く、ユーロ圏も利上げを行い、今回は触れていませんがカナダも、オーストラリアも利上げ基調にあります。
一人負けの円安が少なくとも、2017年末ぐらいまでは続くものだと考えます。
ただし、2018年を過ぎると、金融緩和と貿易黒字で回復したユーロ圏の国々が金融引き締めによって元に戻ってしまう可能性もありますし、世界に対して相対的に円安になれば貿易黒字は拡大するので株価も経済的にも、日本としては好景気になるきっかけになります。
そうなれば、また金融緩和合戦に突入しないとも限りません。
四半期ぐらいで世界の景気動向が変わっていく時代になってしまったため、前提として円安傾向だということを理解しつつも、常に情報のアンテナを貼っておくことをおすすめします。
米国の利上げ後退によって一時的に円高になるでしょうが、米ドル/円で言えば120円ぐらいまで上昇する可能性もあるのです。