米国と中国の貿易戦争の火種がくすぶっています。米国は、保護主義による関税強化を推し進め、中国はそれに対抗するように報復関税をちらつかせています。今後の米中貿易戦争による為替の動きについて解説します。
米中貿易戦争の経緯と為替の動き
米国
- 3月22日:トランプ大統領は500億ドル規模の中国製品に対する関税賦課の大統領令に署名
- 3月23日:鉄鋼とアルミの輸入制限措置の発動
中国
- 3月28日:対抗措置として米国産豚肉などに報復関税を課すと発表
NYダウの推移
3月30日:24,103.11
出典:Yahoo!ファイナンス
米ドル/円の推移
3月30日:106.410
出典:Yahoo!ファイナンス
一時的にNYダウは、3月22日以降に大幅に下落をしたものの
- 米紙ウォール・ストリート・ジャーナルが「両国が通商問題の解決に向けて水面下で協議を開始した」と報道
- ムニューシン財務長官「大統領は貿易戦争を恐れていないが、それが目的ではない。中国の劉鶴副首相らとの協議で対中貿易赤字削減などの解決につながる道筋に向けて取り組んでいる」と述べる
- ナバロ国家通商会議(NTC)委員長「に良い北米自由貿易協定=NAFTA合意が得られることを楽観する。米国はすでに中国と交渉のテーブルに着いている」
と立て続けにインタビューに応じて、米中貿易戦争リスクが後退したとして、やや下落局面が落ち着きを見せています。
一方、ドル/円は
- 21日:政策金利0.25%の利上げ
によって若干「ドル高/円安」に動きました。
米中貿易戦争の背景
世界各国の貿易収支/2017年
トップ10位
下位トップ10位
出典:世界経済のネタ帳
これを見れば、トランプ氏がアメリカの保護主義のために
「貿易赤字を何としても減らしたい。」
と思うのは当然です。
- ドイツ:+2903億ドル
- 中国:+1963億ドル
- 日本:+1880億ドル
- 韓国:+986億ドル
- 台湾:+742億ドル
- アメリカ:-4516億ドル
貿易収支で見ると、アメリカの一人負けの状況なのです。
しかし、トランプ氏がこのタイミングで貿易戦争を仕掛けてきたのは、これだけが理由ではありません。
大きな理由は
2018年11月には中間選挙が控えているため
です。
中間選挙とは
大統領の任期4年のうち半期(2年)が経過した時点で行われる連邦議員その他の公職選挙のこと
を言います。
中間選挙では、政権運営に批判があれば、大統領の与党側が大きく議席を減らす結果になってしまいます。トランプ氏も、共和党の議席を大きく減らす結果になってしまえば、自身の政権基盤が揺らいでしまうのです。
中間選挙で勝つためには、元々のトランプ氏の支持基盤である「白人工場労働者」の票を集めなければなありません。
そのための手法のひとつが
鉄鋼とアルミの輸入制限措置の発動
なのです。
実際に、今回の関税導入で、ピッツバーグに本社を持つアメリカ製造業の雄「USスティール」(アンドリュー・カーネギーが創業)は休止高炉に火を入れ、500人を再雇用することを決定しています。
言ってみれば、トランプ氏は
- 自身の人気取りのため
- 同時に対外貿易収支を改善するため
一石二鳥の方法として「保護主義による鉄鋼とアルミの関税強化」を選択したのです。
なぜ、この時期なのかというのには
3月13日に行われたペンシルバニアの補欠選があります。
まだ、現時点で結果はでていませんが、民主党候補が勝利した可能性も高く、トランプ氏も焦っていることの現れなのかもしれません。
米中貿易戦争と今後の為替への影響
FXトレードで重要なのは「今後どうなるのか?」という点に尽きます。
現時点では
米国側は
- 米紙ウォール・ストリート・ジャーナルが「両国が通商問題の解決に向けて水面下で協議を開始した」と報道
- ムニューシン財務長官「大統領は貿易戦争を恐れていないが、それが目的ではない。中国の劉鶴副首相らとの協議で対中貿易赤字削減などの解決につながる道筋に向けて取り組んでいる」と述べる
- ナバロ国家通商会議(NTC)委員長「に良い北米自由貿易協定=NAFTA合意が得られることを楽観する。米国はすでに中国と交渉のテーブルに着いている」
と、「中国との交渉によるソフトランディング」をしきりにアピールしています。
中国側は
- 商務部の高峰報道官「いかなる貿易保護主義のやり方にも対応する自信がある。中国側は交渉の扉を閉ざすことはしないが、一方的な脅迫の伴う交渉は一切受け入れられない」
- 24日楼継偉元中国財務部長(財務長官)「中国の報復措置は比較的に穏健なものだったため、さらに強力な処置を取られなければならない」
強気の姿勢を変えていません。
楽観シナリオ
利上げの状況を見ると・・・
- 米国:21日:政策金利0.25%の利上げ
- 中国:22日:日物リバースレポ金利を5bp引き上げ(2.55%の利上げ)
と、中国は米国に合わせて、利上げを行いました。
これが意味しているのは「中国は不当に元安誘導で貿易黒字を拡大しようとしていません。」というアピールに他なりません。
ケンカを売られる直前に、ある程度中国側が米国に歩み寄っている姿勢を示しているのです。
水面下の交渉によって、関税合戦の落としどころを見つけられるようだと
為替変動への影響はそれほど大きくならない
結果になります。
リスクが軽減すれば、必然的に「円安/ドル高」に向かうことになります。
悲観シナリオ
すぐに落としどころが見つからない場合は
中国は、報復関税を徐々に展開していくはずです。
中国は昨年196億ドル(約21兆ウォン)分の米農産物を輸入しました。
そのうち大豆が63%を占めています。
大豆に効率な関税をかける報復関税を実行すれば、トランプ氏の支持基盤である「中西部の農民」に大金打撃を与えることができるのです。
ほかにも、自動車や航空機などが報復関税の対象になると考えられています。
また、中国は他にも強硬な交渉カードを持っています。
- 中国に進出する米国企業(アップル、マイクロソフト、スターバックス、ゼネラル・モーターズ、ナイキ)への制裁
- 米国債券の売却
です。
中国に進出する米国企業への制裁
が実行されれば、NYダウへの影響は避けられません。
さらに強硬手段なのは
米国債券の売却
です。
中国は昨年末のタイミングで1兆2千億ドル(約1300兆ウォン)に達する米国債を保有しています。
これを一気に売却されれば、米国債金利は急上昇します。
国債金利の急上昇は、米国経済に大打撃を与えるはずです。
米国発の世界経済の好景気が、米国発でマイナスに転換するリスクすらあるのです。
悲観シナリオでは
「ドル安/円高」が徐々に進行していく
ことがほぼ間違えありません。リスクオフの資金が円に集まると同時に、ドル安が進んでしまうのです。
リスクが拡大すればするほど「ドル安/円高」が加速することになります。
見解
では、楽観シナリオと悲観シナリオのどちらの可能性が高いのか?
というと・・・
楽観シナリオで進む可能性が高い
と考えます。
というのも、トランプ氏はやり手のビジネスマンです。
はじめに無理難題を吹っ掛けながら、交渉を繰り返して落としどころを自分の有利なところで着地させる戦略
を好んで多用しています。
中国も、やり手なビジネスマンですから、
お互いが交渉で落としどころを見つけるのは、それほど困難な交渉ではないはずです。
米国の落としどころ
- ある程度の高率関税によるトランプ支持基盤関連企業の保護
中国の落としどころ
- 米国企業からの技術提供、知的財産権の問題の据え置きほか
このような点から「為替には大きな影響は、与えないのでないはか?」と考えられます。
ただし、悲観シナリオになったときの影響は思いのほか大きく、報復合戦のスパイラルに突入した場合には、リーマンショック級の破壊力を持ちます。頭の片隅には入れておくことをおすすめします。