米国と中国の貿易摩擦が激化しています。今回は、米国と中国の貿易摩擦をわかりやすく解説し、今後の為替の影響を予想します。
米中貿易摩擦(米中貿易戦争)とは?
米中貿易摩擦(米中貿易戦争)とは?
米国と中国の貿易摩擦のこと
を言います。
貿易摩擦とは
特定商品の競争力の差から、輸入が急増すると同時に国内の同産業に減産・失業・倒産などが起こる、貿易相手国との経常収支の不均衡が国内経済に悪影響を及ぼすことで、両国間に摩擦が生じること
を意味します。
米国と中国は、経常収支の不均衡が要因となり、貿易摩擦を生んでいるのです。
2018年の貿易赤字
対中国:4192億ドル
対日本:676億ドル
米国貿易赤字国トップ10
出典:米商務省データ
対中貿易赤字の推移
出典:毎日新聞
2018年の米国モノの貿易赤字
出典:日経新聞
米国は、対中国に対して、4192億ドル(46兆1434億円)もの貿易赤字を抱えているのです。これが貿易摩擦の要因の一つとされています。
米中貿易摩擦(米中貿易戦争)の経緯
2016年
米国大統領に就任したドナルド・トランプ氏が選挙期間中に公約の一つに「貿易赤字の解消」を掲げたことがきっかっけとなっています。
2017年
習近平国家主席(総書記)が訪米して行われた米中首脳会談で貿易不均衡の問題を解消するための米中包括経済対話メカニズムの立ち上げが合意された。
アメリカ合衆国通商代表のロバート・ライトハイザーは講演中で、外国企業が中国に進出する際に技術移転を強要し、その上で不公正な補助金で輸出を促進する中国が国際的な貿易体制の脅威になっていると主張。
トランプ大統領が訪中して行われた米中首脳会談では、対中貿易赤字削減のために総額2535億ドルの商談が調印される。
2018年以降
続々と関税がかけられる
– | 米国 | 中国 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
発動日 | 対象金額 | 関税率 | 品目数 | 対象金額 | 関税率 | 品目数 |
2018年7月6日 | 340億ドル | 25% | 818品目 | 340億ドル | 25% | 545品目 |
2018年8月23日 | 160億ドル | 25% | 284品目 | 160億ドル | 25% | 333品目 |
2018年9月24日 | 2000億ドル | 10% | 5745品目 | 600億ドル | 5%/10% | 5207品目 |
2019年5月10日 | ↓ | 25% | ↓ | ↓ | 25% | ↓ |
第4弾 | 30000億ドル | 25% | 3805品目 | – | – | – |
本当の理由は「貿易赤字」ではない!?
貿易戦争のきっかけは、米国の貿易赤字である
と説明しましたが、実際にはこれは表向きの理由なのです。
米国の貿易赤字も要因の一つではありますが、実体では
ハイテク分野・産業分野における「米中の覇権争い」
が貿易摩擦の要因と考えられるのです。
中国は社会主義国家ですから、国を挙げて産業政策に乗り出しています。「一帯一路(Belt and Road )」「中国製造2025(メイド・イン・チャイナ2025)」など、続々と国を挙げた産業政策を展開しているのです。
「一帯一路(Belt and Road )」
中国西部から中央アジアを経由してヨーロッパへと続く「シルクロード経済ベルト」において、路や港湾、発電所、パイプライン、通信設備などインフラ投資を皮切りとして、金融、製造、電子商取引、貿易、テクノロジーなど各種アウトバウンド投資を積極的に進め、当該経済圏における産業活性化および高度化を図っていくプログラムのこと
「中国製造2025(メイド・イン・チャイナ2025)」
2049年の中華人民共和国建国100周年までに「世界の製造大国」としての地位を築くことを目標に掲げたプログラムのこと
結果として
中国は、米国に肉薄する位置までGDPを伸ばしてきているのです。
中国、米国、日本のGDP推移
2016 世界製造業競争力指数:国別ランキングを見ると、中国が米国を抜いて1位になっているのです。
2016 世界製造業競争力指数
出典:デトロイトトーマツ
米国は「中国の成長」に対して、危機感を感じており、それを貿易赤字とセットにして解決しようとしているのです。
だらこそ、貿易赤字だけなら輸入制限、関税引き上げで済むところを
米国は中国に対して
2018年12月の首脳会談以来、5カ月間に及ぶ閣僚級協議で
- 知的財産
- 企業秘密の保護
- 技術の強制移転
- 競争政策
- 金融サービス市場へのアクセス
- 為替操作
の7分野における協定文が作成され、合意寸前までいっていたのです。
米国が指摘しているのは
- サイバー攻撃などによるIT技術の盗用
- 知的財産の違法な流用
- 為替操作による通貨安政策
- 国有企業への強制的な技術移転
- 高額な補助金政策
であり、「国が関与することで成長を及ぼしているのが世界的なルール違反だ。」とし、それを中国国内の法整備などで制限するように迫ったのです。
米国の強気の交渉の切り札は「関税引き上げ」です。
年間約50兆円の貿易黒字を出してくれる米国は、中国にとっては最重要顧客です。関税引き上げによって、この貿易黒字がなくなってしまうと、中国国内に与える影響も小さくないのです。
トランプ大統領は、「関税引き上げ」の切り札を小出しにしながら、協定の合意を迫った形になります。
しかしながら、5月3日にアメリカ政府に届いた中国側の修正文書は、
- 知的財産・企業秘密の保護
- 技術の強制移転
- 競争政策
- 金融サービス市場へのアクセス
- 為替操作
など、アメリカが要求した「法律改正の約束」を撤回する内容だった。
ため、トランプ大統領は
「中国側が合意をぶちこわした」
と支持者向けの演説で話し、追加関税を10~25%へ引き上げる方針をTwitterで表明したのです。
ワシントンでの協議終了直後、劉氏は中国メディアとのインタビューで、
「中国は原則にかかわる問題では決して譲歩しない」
と強気の発言をし、米中貿易摩擦が長引く様相を呈しているのです。
なぜ、中国は協定を土壇場でひっくり返したのか?
簡単に言うと
- 知的財産・企業秘密の保護
- 技術の強制移転
- 競争政策
- 金融サービス市場へのアクセス
- 為替操作
というのは、中国が今まで成長するために必要な政策の基盤であるためです。
とくに
「外交筋によると、1日までの北京での通商協議で、米側が地方政府が地元企業に出す補助金の見直しを求め、激しく対立した。」
とされていて
地方政府が地元企業に出す補助金
についての対立が取りただされています。
中国は、地方政府に対して補助金を出し、地方政府が地元の企業を誘致し、産業の成長を促して発展してきました。
中国成長の基盤を制限されることに対して反発したのです。
また、米国の圧力に負けて、中国国内の法律を変えた。
となれば、メンツを重んじる中国人には「負け」に等しく、共産党体制の基盤が揺らぐことにつながってしまうのです。
- 産業成長の切り札を失いたくない
- 共産党(習近平)体制の基盤が揺らぐ
のですから、いくら大口顧客がクレームを入れてきたとしても、やすやすと妥協することはできなかったのです。
今後の米中貿易摩擦(米中貿易戦争)の展開
交渉の力関係
米国が顧客であり、輸入額が中国よりも大きいのですから、関税の余地も米国の方が大きいのは間違えありません。
米中貿易摩擦によるGDPへの影響を見ても、米国もダメージを受けますが、最も大きなダメージがあるのは中国なのです。
米中貿易摩擦によるGDPへの影響
出典:大和証券
両者の立場
トランプ大統領
- 根っからのビジネスマン・強力なカードを見せながら、交渉し、ときには妥協して交渉をまとめる
- 2023年の大統領選が控えていて、それまでに解決して実績を作りたい
習近平
- 野心家
- 米国を抜き、世界一の経済大国になることを企んでいる
- 一党独裁体制の権力争いのためにも、メンツが重要
筆者の考え
米国も、中国も、ある種ビジネスマンのようなクールな決断ができる国です。
米国は、中国に対して、かける関税の余地が大きく、国内の景気も今のところは堅調ですので、「ある程度の長期戦になっても、それほど困らない。」というのが実情です。
中国側は、本音で言えば、早く関税を撤廃させたいものの、「メンツがある」「中国の成長基盤を失いたくない」ため、現状の米国の要求は素直に受け入れられない。状態なのです。
結局、この貿易摩擦が解消するためには
トランプ大統領が要求レベルをどこまで譲歩できるか?
ということになります。
メンツが維持できる形で、要求レベルを下げれば、合意できる可能性は高いからです。
しかし、米国にとっても、中国の脅威はあからさまに大きいのです。安易な妥協はできないでしょう。
となると
米中貿易摩擦は、お互いの駆け引きを繰り返しながら、長引く
と予想します。
覇権争い、文字通り「戦争」ですから、簡単に合意できる状況ではないのです。
米中貿易摩擦(米中貿易戦争)のFXへの影響
前述した「米中貿易摩擦によるGDPへの影響」を見ればわかる通りで
米中貿易摩擦が長引けば長引くほど
世界経済に与えるマイナスの影響も大きい
ことになります。
そうなると
有事の円買い → 円高
が進みます。
また、トランプ大統領は、FRBに利下げを要求するなど、米中貿易摩擦と同時にドル安要求も、強くなっていくため
円高/ドル安、円高/株安
という流れになる可能性が高いのです。
米中貿易摩擦の行方は、世界経済に影響を与えるため、投資家は細かい情報も、注視する必要があります。