11月8日にアメリカ大統領の選挙の投票日が迫ってきました。日本でも、ここ数か月はニュースでドナルド・トランプ候補とヒラリー・クリントン候補の情報がスキャンダルとともに連日報道されてきました。色々なFXサイトでは、ドナルド・トランプ候補とヒラリー・クリントン候補は「どちらが勝つのか?」に焦点を絞って議論が交わされていますが、当サイトでは「どちらが勝つのか?」ではなく、「どちらが勝ったら為替相場はどうなるのか?」に焦点を絞って推察していきたいと思います。
実は米大統領選だけで為替相場の影響は推し量れない事実
アメリカの議会(連邦議会)の仕組み
日本と同じ二院制をしいています。日本では衆議院と参議院ですが、アメリカの場合は上院と下院と呼ばれます。
- 上院(元老院) 100議席:任期6年
- 下院(代議院) 435議席:任期2年
議会が法案を作成
↓
上院、下院が過半数の賛成で可決
↓
大統領が署名
↓
法案成立
大統領は議会で可決された法案を承認、否認することができますが、拒否された法案でも両院で3分の2以上の賛成を得ることができれば法案は成立します。
つまり、大統領がいるといっても、上院と下院の過半数の賛成を得られない状況になってしまえば、法案を成立させることができないということです。
例えば
- 共和党のドナルド・トランプ大統領 → 上院:共和党、下院:民主党
- 民主党のヒラリー・クリントン大統領 → 上院:民主党、下院:共和党
という日本でいう「ねじれ国会」のような状態になってしまえば、途端に大統領の権限は実行力を失い、為替相場への影響は小さくなるということです。
大統領選の為替への影響を考える場合には
- 共和党のドナルド・トランプ大統領
- 民主党のヒラリー・クリントン大統領
の2択ではなく
- 共和党のドナルド・トランプ大統領 上院:共和党、下院:共和党
- 民主党のヒラリー・クリントン大統領 上院:民主党、下院:民主党
- ねじれ議会
共和党のドナルド・トランプ大統領 上院:共和党、下院:民主党
共和党のドナルド・トランプ大統領 上院:民主党、下院:共和党
民主党のヒラリー・クリントン大統領 上院:民主党、下院:共和党
民主党のヒラリー・クリントン大統領 上院:共和党、下院:民主党
の3パターンのシナリオ別に考えなければならないということです。
現在、、世論調査で有力視されているのは
3番の「民主党のヒラリー・クリントン大統領 上院:民主党、下院:共和党」なのです。
2016年の11月8日に連邦議会議員選挙は行われます。
ドナルド・トランプ候補とヒラリー・クリントン候補の政策の違い
ドナルド・トランプ候補は大幅減税・反グローバリズムのドラスティックな経済改革
ドナルド・トランプ候補は大富豪であり、経営者という背景もあり、経営的な視点での経済改革を導入する予定です。
大幅な減税
- 所得39.6% → 25.0%
- 法人税35.0% → 15.0%
- 海外利益課税
- 資産税廃止
徹底的な無駄の削減
インフラ投資
反グローバリズム
- TPP反対
- 関税引き上げ
- 移民規制
- 国境に壁
- イスラム教徒の移民制限
- 不法移民の国外追放
オバマケアの廃止
オバマケアというのは日本の皆保険制度のようなもの
端的に言えば「アメリカさえ良ければ良い」という考え方で、移民や海外からの資金流入に課税するなど外に資金を流さない戦略を取りながら、減税をして、積極的にインフラ投資をしていくことを掲げています。
当然、税収が減るドラスティックな改革は、はじめは赤字財政が拡大することになりますが、税金負担が減り、投資が上手く回れば経済が回復することが予測されるのです。
やり手経営者が行う国政というイメージです。
ヒラリー・クリントン候補は日本的な保守的政策
ヒラリー・クリントン候補は、富裕層や投資家に対する増税で、貧富の差を減らし、オバマケアを発展させるなど、日本的な政策を掲げています。
富の再分配の強化
- 富裕層、投資家への増税
- 中間層の減税
- 低所得者への給付拡大
- 最低賃金引き上げ
- 富裕層、投資家の財源を元にインフラ投資
- 女性進出支援
オバマケアの拡大
移民の権利を擁護
金融機関やFEDへの監視強化
端的に言えば「日本的な全員にいい顔をする政策」と言っていいでしょう。富裕層や投資家の増税による財源で、低所得者への給付拡大や女性進出支援、オバマケアの拡大・・・など富の再配分を重視する政策です。
日本でならこれがうけるのかもしれませんが、不満が貯まっているアメリカの国民には弱腰の政策に映り、トランプ氏がどんなに女性を罵倒しても、ヒラリー・クリントン候補が圧勝できない要因と推測されます。
日本を見ればわかりますが、ヒラリー・クリントン候補の政策を実行に移しても、対して景気は変わらないことが予測されます。
為替への影響は?
シナリオ1.共和党のドナルド・トランプ大統領 上院:共和党、下院:共和党
短期的:財政赤字の拡大によるドル安、様子見のリスクオフでの円高が進む
「大幅な減税」と「インフラ投資」を同時に行うのですが、財政赤字の拡大はかなりの規模になることが予測されます。
財政赤字の拡大とドナルド・トランプ大統領の過激な政策は「選挙のためのものなのか?どれだけ実行力を持つのか?」不確定要素が多く、リスクオフで円高になる可能性も高いと考えられます。
中期・長期的:レーガノミクスのようなドル高騰の可能性もある
自国(アメリカ)に対する投資にパワーを集中する政策は、上手くいけば経済が力を取り戻す可能性が高いと考えられます。
トランプ氏の政策は、レーガン大統領のレーガノミクスに近いもので
レーガノミクスは
- 大幅な所得税減税
- 大幅な支出削減
- 通貨供給量の制限
- 大幅な軍備拡張
によるドルの高騰を生みました。
多少の違いはあるにせよ
- 大幅な所得税・法人税減税
- 大幅な支出削減
- 対外的な投資を制限し、自国への投資に切りかえ
- インフラ投資に集中
という政策は、中期的、長期的にはドル高になることが予測されるのです。
2.民主党のヒラリー・クリントン大統領 上院:民主党、下院:民主党
短期的:リスクオフの解除によるドル高
トランプ・ショックを警戒して、多くの投資家はすでにリスクオフを実行に移しています。
ヒラリー・クリントン大統領が収入すれば、トランプ・ショックは回避できることになるのでリスクオフの必要性がなくなり、若干のドル高になると予測されます。
中期・長期的:為替相場への影響はほとんどなし
ヒラリー・クリントン大統領はドラスティックな改革ではないため、アメリカの景気が急速に回復することも、急速に悪化することもない、と考えられます。
オバマ大統領の政策を改善する程度のものですので、現状維持というイメージが近いのではないでしょうか。
3.ねじれ議会
為替相場への影響はほとんどなし
日本と同様で二院制でねじれ議会の状態になってしまえば「法案が通らない」状態が続くことになります。
法案を通せたとしても、相手方の党に配慮した妥協法案になってしまうことが多く、身動きの取れない状態になってしまうのです。
この場合は、為替への影響は限定的なものとなるでしょう。
為替への影響が表れるのは来年か?
過去の大統領選を見てみると
2008年のオバマ大統領のときはリーマンショックが同時に起こってしまったため、参考になりませんが、それ以前の大統領選の場合
- ドル/円の平均値幅:19.2円(1988年~2011年)
- 米大統領選挙年のドル/円値幅平均:14.3円(1988年~)
- ドル/円値幅ランキング
- 1位:1998年ドル/円の平均値幅:33.8円) ビル・クリントン(民主党)の翌々年
- 2位:1990年ドル/円の平均値幅:31.7円 ジョージ・H・W・ブッシュ(共和党)の翌々年
- 3位:1989年ドル/円の平均値幅:27.5円 ジョージ・H・W・ブッシュ(共和党)の翌年
- 4位:1993年ドル/円の平均値幅:25.5円 ビル・クリントン(民主党)の翌年
米大統領選挙年は大胆な政策が打ち出されないのでボラティリティは小さい
翌年に新大統領の政策が打ち出され、ボラティリティは大きくなる
翌々年に新大統領の政策の効果によって、ボラティリティはさらに大きくなる
という傾向があるようです。
ということは、大統領選の為替への影響は年内はそれほど大きな動きに発展せず、来年の打ち出される政策によって、動くと考えた方が妥当であると考えられるのです。
まとめ
- 大統領選だけでなく、議会選のねじれにも注意する必要がある
- ドナルド・トランプ大統領誕生なら、ドル安からのドル高騰もあり得る
- ヒラリー・クリントン大統領誕生なら、為替への影響は軽微。一時的にドル高
- 新大統領の打ち出す政策の方が為替への影響は大きい。来年が注目
となります。
元々、大統領選の為替への影響はそれほどないと言われているので、イギリスのユーロ離脱と比較すれば、それほど大きな影響はないでしょう。